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【2026/06/11 04:03 】 |
5歳の俺より背が高くてまだモンクレール女装してたよな
夢中になって走り回り、王宮では禁じられた木登りを試みる。そこそこ太い木を選び、猿の如くするする登っていく…自分の限界を知らず、禁じられた反動でどこまで登れるか挑戦しようと、負けん気を発揮してある程度まで登り…また落ちた。枝にかけていた足を滑って外し、手だけでは支えきれずに落ちたんだ。モンクレール


 地面に叩き付けられる衝撃を覚悟した。だが俺は落ちる最中下から吹き上げる突風に体を煽られ、格段に少ない衝撃で足から着地できた。地に手を付き、驚きに跳ねた心臓を落ち着かせながら俺が顔をあげると…目の前にあいつがいた。

 5歳の俺より背が高くて…まだ女装してたよな。顔も隠してない。

 ヒースが口煩く入るなと言っていた森に、誰かいるなんて考えてもいなかった俺は目の前に現れたあいつを人だと思えず…風使いか何か、人では無いものだと判断した。浅はかな5歳児の発想なんてこんなもんだろ…。
 お約束過ぎる古典的な手口だが、だからこそあり得なくて有効な手段だった。後ろから付いてきたヒースと護衛をまき、小さな体を活かしてちょこまか物陰や家具に潜んで追っ手を遣り過ごしてる。壺や隙間に入ってる俺は使用人の目すら欺き、屋敷の至る所に侵入した――今思えば領主と父に泳がされてた気がする。
 でなければあんなに簡単に森へ入れはしなかっただろう。
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 出入口は屋敷と森の境界にある大門だと世間では認識されている。勿論守衛が常駐し、森とは別に結界が張られた石造りの大門。精緻な紋様が彫られ高垣や柵と連結され一体となり、成人男子20名がかりで押せばやっと開くのではと噂される。
「思い出せたか?昨日の一件。納得したなら起きろ。まだ陽は出てないが、いつヒースが来「腹枕をしてないだろう……まだ時間はある、寝ろ」
 ポンポンと寝台を叩き、寝転ぶように指示を出す。昨日の記憶を思いだし、詳細を知ったアレクは理解した…犯人の思惑を。ご丁寧な犯行声明と共に苦言がびっしり綴られた手紙を読めば誰だって気付く…ツェリノアは昨日早朝の腹枕現場を水晶越しに視ていたらしい。会話は聞こえないが不穏な気配を察し、手紙に細工を仕込んだ。流石、腹枕阻止を誓う娘。
 やれば出来るじゃありませんか…。ヒースが扉から顔を覗かせ、感心したような口ぶりで呟く。普段アレクを起こすのに一苦労する彼としては、やろうと思えば起きられるのに怠けるアレクの態度に苛立ったようだ。語調に不満げな響きを含む。
 立ったまま思考に没頭していた覆面は、声をかけてきたヒースに向き直り歩み寄る。

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【2011/09/19 15:23 】 | 小説
煎餅蒲団から転載の小説
茹だるような夏の終わりを思わせる、朝の清々しい風が窓から入り込んで蒲団の上でいつまでも目蕩んでいる政宗の髪を撫でてゆく。昨晩のアルコールはすっかり浄化されていたが、二日酔いの時と同じ、いつまでも寝ていたい気がしている。モンクレール
折角の休日だがこんな日は一日中、ゴロゴロダラダラしていたい。
政宗は、愛用のタオルケットに身体を巻きつけるようにして抱きつきながら、だらしの無い笑顔を浮かべている。
気持ちのいい倦怠感に身を委ね、政宗は再び眠りの淵に落ちていった。 

どれ位目蕩んでいたのかは分からなかったが、枕もとの時計を手繰り寄せてわざわざ確認するのも面倒だった。閉じた目蓋から滲む陽の光を眩しく感じてい る。窓から流れ込む風はまだひんやりとして気持ちよかったが、背中に何か温かいものを感じて寝返りをうった。背中に寄り添った柔らかいものの正体が腕の中 に抱いていたタオルケットかと思いながら振り返る途中、微かに開いた目蓋の向こうに、遠くへ投げ出したタオルケットが見えた。抱いているうちに暑くなって 向こうへ投げ出したのだと理解する―――が。なら、背中にある温もりは何だろう、と思う。
そう言えば昔、隣に住む和泉姉弟はよく、不用心に開け放たれたままの玄関から勝手に上がりこんで家の中で遊んでいたっけ。
そう思い返せば、小学生だった双葉はよく、敷きっ放しの政宗の布団の中でマンガを読んでいた事を思い出す。今はもうすっかり大きくなって、高校生の分際 で生意気に彼女が出来た上にホテルに出入りまでしている双葉がこの部屋に来るなんて随分久しぶりだなと思いながら、もしかしたらその彼女の事で俺に何か相 談に来たのではないか、等とぼんやり思いながら政宗は寝返りを打った。


「ああ、なんだ、双葉かと思ったら若葉じゃねぇか。まさか姉弟だから似てるよね、なんていうのかな、雰囲気とか。あと、双葉もああ見えてメガネ外すと意外 といい男だったりするしね」と。一気に喋った政宗は生唾を飲み込むと、開いた目蓋を二三度瞬かせてから意味不明な言葉を叫んだ。


「え、あ、ちょ、な、何してんのお!?」

驚きのあまり反動で半身を起こした政宗が、目を見開いて蒲団の上に横になっている若葉を見下ろしている。
教室の中で椅子に座っているのなら何の不思議も無いいつも通りの若葉が、けれど今、政宗の煎餅蒲団の上で身体を横たえている。きちんと制服に身を包み、 結い上げた髪は整えられている。そのまま学校まで充分出かけられる仕度を整えた若葉はけれど、その身支度には凡そ一番似つかわしくない場所で身体を横たえ ていた。
「……な、なに、どうかしたの、何かの緊急事態か何か?」
半身を起こしたまま、目を瞬かせて必死に状況を飲み込もうとする政宗が尋ねるが、若葉は細い指先を口元に押し付けて「しーっ、静かに」と、言ったきり、睨むように政宗を見上げている。
「は?」
「なに、誰かに追われてるの?ヤクザか?それとも鬼ごっこか何か?け、警察ならちょっと助けられないかもしんないよね、つか、この状況じゃ俺が捕まるし ね、多分……って、え?違う?なら何だよ、全然分からないんですけど。っていうか、どうやって入ったの」と。言って困り果てた政宗を、若葉が白い掌をヒラ ヒラと動かして「おいでおいで」と誘う。

「……マジか」

ごくり、と喉仏を上下させて、短く呟いた政宗が若葉に向き直る。
「あ、でも、こういうのはまず気持ちを確かめ合ったりとか、取り合えずそういう事をする前にデートとか食事とかしてムードを盛り上げたりとか、ほら、意味 も無く夜景を見に行ったりとかさ、最初だから気合入れて奮発して高級ホテルに泊まったりとか、恥ずかしいから一泊旅行に託けたりとか……そういうの、あ の、オレは別にいいんだけど、女の子は気にするんじゃないの」
と、続ける政宗の胸座を若葉は掴むと、そのまま一気に政宗を蒲団の上に引き倒す。
「ちょ、え、待って……あ、いや、心の準備とかそんなんじゃないけどオレ昨日風呂に入って無……!」
と、驚いて目を瞬かせる政宗を蒲団に組み伏すと、若葉は政宗の口を掌で覆って強引に封じる。
「少し黙ってて。って言うか、鍵は昔から同じ隠し場所なのね、不用心過ぎて驚いたわ」
空手仕込みの寝技で政宗を組み伏した若葉が、上から覗き込むようにして政宗を睨みつけながら低い声で囁いた。



「なに勝手に盛り上がってんのよ、人の話をちゃんと聞いて」
政宗が静かになったのを見計らって、若葉は政宗から離れて再び蒲団の上に横になった。政宗はまた半身を起こそうとしたが、若葉に襟元を掴まれてそのまま並ぶようにして身体を横たえる。
「……で、どんな話なんですか」
シングルの蒲団の上に若い男女が二人で並んで身体を横たえている。どう考えても可笑しな状況だが、肩が触れ合うくらいに身体を寄せているとは言え、向かい合って見詰め合うどころか、それぞれに天井を見上げていて色気も何もあったものではない。

「ほら、この前の、双葉の彼女騒動があったでしょ」
「ああ、あれは凄かったよね、お前のブラコンぶりには正直引いちゃったよ、いや、マジで」
「そんなのは別にどうでもいいのよ、問題はソコじゃなくて」
「え、他に何か問題が?」
「ほら、ワタシだけあんなに双葉の心配して口惜しいじゃない」
「……はぁ?」
「だからね、ワタシばっかり心配してあげてるのが口惜しいのよ!」
「……もしもし、何か悪いものでも食べましたか」
「……」
「う、嘘です、軽い冗談です、脇腹掴んで捻るのは止めてください、すいませんでした……で?」
「だから、双葉にも少しは心配させてやらなきゃって」
「……?」
「私ね、今日はこれから隣の政宗の所で試験勉強するわよって双葉を誘ってあるの」
「ふざけんな、俺は休みの日は普通の男の子に戻ってるんだぞ、勉強なんかするか」
「そんなの知ってるわよ、だからそれはあくまでも口実ってだけ」
「分かってんならいいんだけど、口実って何だよ?」
「だからね、双葉が『こんにちわ』って顔出したら”どっきりびっくり作戦”を決行することにしたの」
「……はい?」
「だから、双葉が『よろしくお願いしまうす』ってドアを開けたら、政宗の蒲団に私が寝てるっていう」
「ふーん」
「何他人事みたいな相槌打ってんのよ、政宗も共犯者なんだからもっとやる気を出して貰わなきゃ困るわ」
「え、でも、やる気ならさっき出しちゃっ……あ、だから脇腹は止めろって本気で痛いから、赤くなっちゃってるから」
「もうっ、愚図愚図してる暇は無いのよ、多分もう直ぐ来ると思うから」
「だからなに、双葉をびっくりさせればいいのか?」
「びっくりっていうか、まぁ、正確に言えば心配させればいいの」
「心配ねぇ……」
「あら、だから政宗を選んだのよ。小さい頃から知ってる幼馴染でダメ男、しかも今は先生と生徒という禁断の関係なんだもん、お堅い双葉なら頭ごなしに否定すると思うのよね」
「……」
「その禁断効果を狙う為にわざわざ休日に制服着てきたんだよ?きっと効果テキメン、間違いなしだわ」
「……ちぇっ」


小さく舌打ちをして、政宗は見飽きた天井から視線を移して何の気も無しに傍らの若葉を振り返る。若葉はまだ天井を見上げていたが、政宗の視線に気づいたのか、首を少しだけ動かして振り返った。
目が合うと、何かに導かれるようにして政宗は身体を若葉の方へと横向けた。
「……でも、服を着たまんまじゃどうかな、あんまり意味が無いんじゃないか?」
と、政宗は言うが早いか着ていたTシャツに手をかけて脱ぐと上半身を晒す。突然のことに若葉は「え」とだけ声を上げて顔を逸らしたが、直ぐに思いなおすとおずおずと政宗を振り返る。
「ど、どうしたの、急に?」
「どうしたもこうしたも、双葉に確実にダメージを与えたいんだろ?だったらこのままじゃ甘いね。だって自分の姉が隣のダメ教師と出来てるなんて思いたくねぇもん、必死に否定するだろうから『服着てるから嘘じゃないですか』って直ぐに見破っちゃうよ?」
「……そう言われてみればそんな気も……」
「だろ?だから若葉も脱いでおいた方がいいんじゃねぇのか」
「そ、それは無理よ……」
「なんだよ、双葉を心配させてぇんだろ、やる気を出せって言って気合を入れたのはそっちじゃねーか」
「だ、だったら少しだけブラウスのボタンを外しておくってくらいで……」
「はぁ?……まぁチラリズムってのも究極のエロスだからな、裸より服着てる時に見えるチラチラが堪んないって言うしね、ならそれでいいけど、でもなら胸元を少し開いとけよ、”乱れちゃった”みたいなカンジでよー」

そ、そうなの、と小さく呟いて、若葉はブラウスのボタンを襟元から2,3個外す。ボタンを外しただけでじっとしている若葉に、政宗は「だから、少し乱しておかないと」と、言って少しだけ、胸元を開いた。

「……で、体勢はどうする」
立てた肘に頭を乗せ、若葉を見下ろすように見詰める政宗が至極真面目な様子で尋ねる。
「肩を並べて天井を見上げてたんじゃ仲良しの昼寝みたいじゃねーか、『子供の頃みたいで懐かしいですね』って双葉まで並んで寝ちまうぞ?そうじゃねーだろ、双葉にショックを与える為にはもっとディープな関係を演出しなきゃダメだろう?」
「……そ、そうね」
「まぁ一番は『お取り込み中です』ってカンジの、もうなんつーの、こう……」
「いい、説明しなくていい、聞きたくない!べ、別にソコまでしなくてもいいのよ、別にワタシは……」
「あ、なに、巻き込んでやる気にさせておいてそれはないんじゃないの」
「そ、それはそうだけど」
「オレも別にそこまでしようって言ってるんじゃねーのよ、ただ、そういう雰囲気を匂わせる為にも、こう、肩を並べて寝てるんじゃなくて、抱き合って寝てるとか、若葉を俺が組み伏してるとかだな……」
例えばこんな風に、と言って腕を回した政宗が、若葉を引き寄せる。途端に若葉が平手で政宗の頬を打つと、腕を突っ張って胸を押し返し、抱き寄せられるのを拒んだ。
「……こんなカップルが何処に居るんですか」
「優しく抱き寄せる彼氏をビンタって何、どんなプレイですか」
と、続けて不貞腐れる政宗が若葉から手を離す。
「人が折角協力してやってんのに」
と、頬を押さえながら呟く政宗を、若葉は罰が悪そうに横目で見ている。
「ご、ゴメンなさい、つい……」
「ゴメンじゃねーよ、でもならアレだな、横がイヤなら上下にするか。若葉が下で俺が上、これは絵的にもかなりのショックだと思うよね、だって何か本番に似 て……って、もう殴るのは止めようよね、ラブラブなのに俺のほっぺが赤く腫れてたら可笑しいでしょ、変な趣味を疑われるから」
「……じゃあワタシは黙って寝てるだけでいいのね?」
「あー、そうそう、そんでオレが若葉を組み伏してるっていう構図は結構キツイと思うよね」
「……そう?」
「そーだよ、だって本番みたいじゃん……って痛ってー!だから殴るなって言ってんじゃねーか、あーあ、俺のほっぺが真っ赤だよ、あ、やばいよ、鼻血まで出ちゃったよ、なんだか凄く厭らしい絵になっちゃうよ、だって上になってる政宗くんが鼻血って……あー」
「もう、鼻にティッシュでも詰めておいてよ、私の顔に垂らさないで、絶対よ、垂れたら殴るから」
「いやいや、誰のせいで鼻血が出てるんですか、なのにまた殴るってどうよ?」
「どうでもいいじゃない、そんなの。それよりもう直ぐ双葉が来るんじゃないかしら」
「どうでも良くねーけどそうかもな、そろそろ来る頃かもしんねーな」
「なら、このまま待てばいいのね」
「うん、まぁ、そうなんだけど……」
「……そうなんだけど?」
「念のためにキスするフリもしとくか、念には念を入れて」
「とか何とか言って、本当にキスするつもりじゃないでしょーね、厭らしい」
「ば、ばか、そんなんじゃねーっつーの、どれだけ自意識過剰なんだよ、フリだよフリ、ドラマとかでよくやってるだろーが」
「とか何とか言っちゃって」
「とか何とかじゃねーよ、こう、角度とかで本当にキスしてるみたいに見えるヤツ、あるだろ?双葉がそこのドアを開けたらそんな風に見えるようにしとくの。驚くし、もしかしたら双葉、ショックで倒れるかも」
「……あそこのドアからキスしてるように見える角度なんて分かるの?」
「んー……多分」



お邪魔します、という声がドア越しに聞こえてくる。
休みの日にありがとうございます、と言いながらドアを開いた双葉の目に、政宗に組み伏された若葉が飛び込んでくる。
驚きに身体が凍りつき、逃げ出したくても逃げられないでいる双葉の目は、釘で打たれてしまったかのように二人を捉えて離さない。
若葉の乱れた胸元が大きく膨らんで潰れる。重なり合う唇がそれに合わせるようにしてゆっくりと離されると途端に、若葉の平手が政宗の頬を打って大きな音を立てた。
「何が”フリ”よ、嘘つきっ」
憤る若葉が勢いよく布団から立ち上がると、驚いて固まっている双葉の横を早足で通り抜ける。
「双葉はもっと早く来なさい、来るのが遅いのよっ」
と、耳まで真っ赤に染めた姉が吐き捨てた言葉を双葉はぼうっと耳に残しながら、視線の先で頬を押さえた政宗の鼻から滴り落ちた赤い血を眺めている。


「――若葉の作戦は取り合えず成功みたいだな」
と。言って政宗は口尻を上げたが、打たれた頬が痛くて直ぐに顔を歪めた。 モンクレール ダウン
【2011/01/25 14:49 】 | 小説
とある大樹の森で から転載
 幼い少女がひとり、森の中を走っていた。モンクレール
地面に張り出した大きな根を飛び越え、甘い蜜を出す薄紫の花の下をくぐり抜ける。
柔らかな下草に一面覆われた少し開けた場所にたどり着くと、息が切れたのかぺたりと座り込んだ。
年の頃は5~6歳といったところだろうか。白い、頭からすっぽり被る形をした袖なしのワンピースから伸びた手足は白く、子供らしいまろみを帯びている。 柔らかな波を描いて顔を縁取る髪は肩のすぐ下ほどの長さで、薄い銀色の輝きは日の光を浴びてあちこちに虹色の煌きを弾かせていた。
初めて来た場所なのか、大きな翠色の瞳に好奇心をいっぱいに(たた)えてきょろきょろと周囲を見回す。と、
「やったー!新記録だー!!」
愛らしい澄んだ声で叫びながら、両手を振り上げる。
…外見は天使のように愛らしいが、活発な性格のようである。
「さて、あいつが来ないうちに、っと」
少女がさらに進もうと立ち上がったところで、
「レティルリティア」
低く落ち着いた声とともに少女の腕の下に大きな手が伸び、そのままひょいと抱え上げられた。
「あー、ヘイルナード!やーだー、はーなーしーてー」
手足をばたつかせて暴れる少女をものともせず抱き上げたのは、年の頃は20代半ばの青年。褐色の肌に艶のある黒髪、瞳の色も黒なら纏う衣服も黒という、黒尽くしの外見をしている。
「何度言ったらわかる。お前はまだ小さい。遠くに行くのは無理だ。」
淡々と喋る青年に対し、レティルリティアと呼ばれた少女は何とか青年の手を外そうと試みる。
「無理じゃないもん!あたしは外に行くんだもん!」
「途中で力尽きて眠ってしまうくせに何を言う。」
あきらめたのか、もがくのを止めた少女を青年はだっこの形に腕に抱え直す。
「むぅー」
可愛らしいうなり声に青年が少女のの顔を覗き込むと、薄紅色の頬が見事に丸くぶっくりと膨れている。
「帰るぞ」
そう言って少女が来た道を引き返す青年の腕の中で揺られながら、
明日こそは出て行くんだ!
少女は次の成功を誓った。



幼い少女がひとり、森の中を走っていた。
年の頃は7~8歳といったところだろうか。虹色の煌きを帯びた淡い銀色の髪と、大きな翠の瞳を持つ可愛らしい少女である。
甘い蜜を出す薄紫の花の下をくぐり、柔らかな下草の生えた小さな広場を抜け、小さな赤い実をつけた蔦の絡まる樹の根元で立ち止まる。
初めて来た場所なのか、大きな翠色の瞳に好奇心をいっぱいに湛えてきょろきょろと周囲を見回す。と、
「うわぁ、初めて見たー!」
見上げた樹の上に、瑠璃(るり)色の羽を持つ小鳥が何十羽もとまっているのを見つけて歓声を上げる。
よく通るその声に、しかし小鳥たちは動じることなく小首を傾げ、はしゃぐ少女を見下ろしている。
すると。
「レティルリティア」
鳥に向かって大きく手を振る少女の後ろから、低く落ち着いた声とともに大きな手が伸び、そのまま少女を抱え上げる。
「うわっ、またヘイルナード!」
「おまえこそ何度言ったらわかる」
「やだやだやだやだやだー!はなして、はなして、はーなーせー!!」
叫びながら両手両足をばたつかせるが、やはり効果は無く。
レティルリティアと呼ばれた少女は、ヘイルナードと呼ばれた青年に抱っこされ、来た道を戻るのだった。
明日こそ、明日こそきっとっ!
何度目か知れない成功を誓いながら。



少女がひとり、森の中を走っていた。
年の頃は10歳前後。虹色の煌きを帯びた淡い銀色の髪は二の腕の半ばほど、大きな翠の瞳を持つ可愛い少女である。
柔らかな下草の生えた小さな広場を駆け抜け、小さな赤い実をつけた蔦の絡まる樹の前を通り過ぎ、大きな岩と岩の間をすり抜けると、小さな川が流れていた。川には小さな魚が泳ぎ、時折その鱗が光を弾き煌いている。
「うわぁー」
少女は歓声を上げたが、すぐにはっと気づいて首を振ると
「だめだめ、さっさと行かなくちゃ」
渡れる場所を探して上流を、続いて下流を見渡す。
そうだ!高いところのほうが良く見えるかも!
そう気づいて岩の上によじ登ろうと手をかけたところで
「レティルリティア」
低く落ち着いた声とともに少女の体に腕が回され、張り付いた岩から引き剥がされる。
「ヘイルナード!うそ、また見つかるなんてー!!」
「まだ小さいおまえには無理だ」
少女の抵抗など歯牙にもかけず、青年は少女を腕に抱え上げる。
「小さくないもん!」
「私の半分も無い背丈は十分‘小さい’」
そう言ってヘイルナードと呼ばれた青年は、少女を腕に抱えたまま軽やかな動きで岩に足を掛け乗り越え、来た道を戻って行った。
ヘイルナードのばかばかばかー!明日はぜったい出てくんだー!!
少女はしかしあきらめることなく次の成功を誓った。



少女がひとり、森の中を走っていた。
年の頃は12~13歳。体つきは幼さを残すものの、半袖のワンピースからすらりと伸びた透き通るように白い手足からあどけない艶を放っている。虹色の煌きを帯びた淡い銀色の髪は豊かに背を覆い、少し細くなった(おとがい)をもつ(かんばせ)に煌く翠の瞳が印象的な美しい少女である。
小さな赤い実をつけた蔦の絡まる樹の前を通り過ぎ、大きな岩と岩の間をすり抜け、小さな川が流れているところでは少し下流に移動して水面に突き出た石の上を身軽に跳んで渡っていく。
早く、早く。
内なる声に追い立てられるように、少女は‘外’を目指して走る。
黄色い落ち葉に彩られた長い通路の果て、鋭い棘を(まと)った茨の茂みを前にして、どうしたものかと立ち止まったところで
「レティルリティア」
低く響く落ち着いた声が少女を呼んだ。
ビクッと肩を震わせ、少女が恐る恐る振り返れば、黒髪に黒い肌、静かな光を湛えた黒い瞳の青年。
「……ヘイルナード」
少女があきらめの混じった声で名を呟けば、
「帰るぞ。」
青年の腕が伸ばされる。
「う~。」
唸りながらとぼとぼと近づく少女を軽々と腕に抱えると、青年は(きびす)を返した。
青年の力強い歩みに揺られながら、少女はじぶんの頭をことんと青年の首下(くびもと)にもたれさせた。



少女がひとり、森の中を走っていた。
年の頃は15歳くらい。たっぷりとしたドレープをとった半袖のワンピースに包まれた体の線は、やや幼さを残すものの娘らしい丸みを帯びている。虹色の煌きを帯びた淡い銀色の髪は豊かに背を覆い、翠玉(すいぎょく)を()めたかのような瞳の美しい少女である。
小さな川の水面に突き出た石の上を軽やかに跳んで渡り、黄色い落ち葉の通路を駆け抜ける。鋭い棘を纏った茨の茂みの前で立ち止まり、きょろきょろ辺りを 見回すと、蔦が巻きついた一本の樹に狙いを定め、蔦を足がかりに樹をよじ登っていく。茨の茂みの上に大きく伸びた太い枝の上を危なげなく渡ると、枝の先か ら垂れた蔦を伝って、見事茂みの向こうに下り立った。
「うふふ。」
茨の茂みに向かってしてやったりと会心の笑みを浮かべると、踵を返して再び走り出す。
早く、早く。
出て行かなきゃ。
内なる声に急き立てられるように、少女はひた走った。
走って走って…………岩肌に無数の水晶が顔を覗かせる谷間があと少しで切れようかという場所で、少女の足が、ふとその動きを止める。ぱっと後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
確かめるようにじっと見つめても、やはりそこには水晶が生えた岩肌とその狭間の通ってきた細い路しかなく。
少女は戸惑うように首を傾げると、再び前方を向き、足を踏み出そうとしてやはり躊躇(ためら)う。
「う~。」
進もうとして進めぬまま、少女はぺたりとその場に座り込んでしまった。そこへ
「レティルリティア」
変わらず感情を見せない、低く響く声が少女を呼んだ。
声の主を振り向いて、黒以外の色を持たない青年をその目にとらえると、少女の顔がぱっと輝く。しかしそれも一瞬で、その顔はすぐにぷっとふくれっ面になった。
無言で睨む少女に、青年は足音を立てない足取りで静かに一歩ずつ近づく。
すぐ目の前まで歩み寄った青年に、少女はふくれっ面のまま両手を伸ばした。
「ここまで来たのは新記録だから、だから疲れちゃったから、それで今日は帰るだけなの!次こそは出ていくんだから!!」
青年は小さく一つ溜め息をつくと、少女の腋の下に手を入れて、重さを感じさせずに軽がると抱き上げる。そのまま幼子を抱くように少女を腕に乗せて、少女が走ってきた道を戻っていく。
少女の背はずいぶんと伸び、腕に抱えると少女の顔は青年のそれよりも高い位置にくる。青年の肩に手を乗せて自分を支えた少女は、ふと思いついたように青年に話しかけた。
「どうしてヘイルナードは、私のことを皆みたいに‘レティ’って呼ばないの?」
「……お前は‘レティルリティア’だろう」
「そうだけど~。でも~。う~」
薄紅色の透けた白い頬をぷっくりと膨らませると、少女は自分の頭をこてんと青年の頭にもたれさせた。



少女が逃げて、青年が連れ戻す。
そんな光景は、こうして繰り返され・・・・・・



* ** *** ** * 



青年にとって、少女は目の離せない存在だった。
小さい体なのにやたら行動力があって、起きるとすぐに駆け出していく。
その度に、少女が疲れた頃を見計らって迎えに行き、連れ戻すのが彼だった。
もちろん四六時中見張っているのは無理な話で、気づいた者が青年に教えてくれるのだったが。
知らせを受ける度に青年は、少女を追いかけて森の中を走るのだった。



青年にとって、少女は幼くて庇護が必要な存在だった。
森を出て行こうと駆け出しては体力が続かずに座り込んでしまう。
なのに抱き上げれば、疲れきっているはずなのに暴れて抜け出そうとする。
青年にとっては子リスがもがくくらいの抵抗でしかなく、むしろ少女がもっと疲れてしまうことのほうが気がかりなのだった。



青年にとって、少女は厄介な存在だった。
自分の背丈だって自分の半分もないのに――青年が長身なせいもあるのだが――頑固で、相変わらず出ていくと言っては駆けていく。
おまけに少しずつその距離が伸びていくものだから、連れ戻すのに間に合うかどうか心配になる。
なにせ最初に少女が駆け出して行き、眠り込んで次第に姿がぼやけてきた時に、
「本体から離れたまま消えてしまったら死んでしまうかもしれない」
などとと聞かされたものだから、心配になるのも無理はないのだった。



青年にとって、少女は不思議な存在だった。
森の木々たちはほとんど姿を変えない――もちろん花や実をつけたり紅葉したりという変化はあるが大きさはさして変わらない――のに、少女は気がつけば背が伸び、子どもっぽいぷくぷくとした丸みを失いつつある。
その変化は、自身も姿の変わらない青年にとっても驚嘆すべきものだった。
とはいえ、まだまだ幼いのも確かで……。
なにせ、彼女の言う‘明日’が、普通に翌日ではなく数ヶ月――時には数年――も経っていることに、未だに気付いていないのだから。
今回はいつもよりおとなしい少女を訝しみながらも、もたれてくる温もりが離れていくのがもったいない気がして、青年はいつもと同じく黙って少女を運んだのだった。



青年にとって、少女は厄介で、庇護が不可欠で、目が離せない、不思議な存在だった。
いつその姿を現すのか分からない。赤ん坊姿の時は良かったがちょっと大きくなると途端に外に向かって駆け出す。かと思うと疲れて眠り込んではそのまま消えてしまうのではないかとヤキモキさせ――誰よりも早く時の中を駆けるように姿を変えていく。
気がつけば、泉のほとりに来て、姿を見せない彼女のそばに座り込み待ち望む自分が在った。
次はいつ現れるのだろう?
早く出てくれば良いのに……。
青年がこの森で暮らし始めて数十年。彼と語り合う存在は多かったが、少女の出現を待ち望む時の、胸の奥が落ち着かない想い――この想いが何というのかは解らないが――を抱かせるのは、あの少女ただ一人。
この森に来る前の記憶は遠く朧であったが、しかしやはり、こんな想いを抱いたことは無かっただろうという気がした。
夜の帳が下り無数の星星が煌く天の下で青年は抱えた片膝に額を付け、前回の少女の‘脱走’を思い起こす。
まさか水晶の谷間まで行けるとは思わず、ほぼ森の反対側に居た青年が間に合わないのではないかと焦りながら谷に着いたとき、まだ余力がありそうなのに何故か少女は先に進もうとしていなかった。
ほっとする――態度にはまったく表れなかったが――青年の心の内も知らず、変わらず「次こそは」などと言う少女に、さすがに溜息がこぼれてしまったが。
それでも、少女が自分の腕に大人しく抱き上げられてくれると、青年の胸の内は温かいもので満たされてくるのだった。



青年が待ち望み、少女が現れる。
そんな現象は、こうして繰り返され・・・・・・



* ** *** ** *



人が足を踏み入れるのを拒むかのような高く峻厳(しゅんげん)な山々が軒を連ねる大山脈の中、万年雪を湛え最も高い‘天峰’と呼ばれる山々に囲まれたその場所に、誰とも無く‘神々の箱庭’と呼ぶその森は在った。
周囲の寒さを寄せ付けぬ常春の大気の中に(よわい)千年を越える大樹が無数に(そび)える‘千年大樹の森’。神々が自ら植えたとされる木々は、齢百年を過ぎれば木霊(こだま)を宿し穏やかに語り合う。
欲深き人も、血を好む獣も寄せ付けぬ、ただ木々と鳥たちの楽園。 

木々たち(正確には木霊たち)の今――といってももう数十年来になるのだが、千年大樹の彼らにとっては十分‘今’と言える――の話題の多くは、青年と少女のこと。

木々たちは知っていた。
青年が、かつては人であったことを。
大地の神の守護を受けた戦士として魔物と戦い続け、死してもまた転生を重ね神の使徒であり続けた彼は、最後の戦いで神域に迫った強大な魔物と魂に宿る力 まで振り絞って戦い、相打ちとなった。最後まで神に尽くして散った彼に対する大地の神の慈愛は大きく、再び転生する力など残っていなかった彼の魂は神の御 手により(すく)い上げられ、神々に愛されし‘箱庭’に置かれた。――彼の剛き意志を現したかのような‘黒耀晶石’の化身として。安らぎに満ちた常春の空間で、戦いに満ちた生を重ね傷だらけの魂が安らかなれとの願いを込められて。
その神の慈しみのままに、青年はこの‘箱庭’で穏やかな日々を過ごしたが、既に人の子ではなくなり戦いに満ちた前世までの記憶は遠くなったとは言え、こ の森でただ一人、人としての姿を持つ存在である青年は孤独であった。たとえどんなに木々たちが話し相手になったとしても、彼のような存在はその森では彼し かいなかった。

木々たちは何でも知っていた。
少女が、そんな青年に遣わされた神の恵みであることを。大地の神の奥方である水の女神――木々たちは敬愛を込めて‘麗しき御方’と呼ぶ――が、時折何か を探すような目をする青年を憂いた‘箱庭’の木々たちの声を聞き届け、‘翠玉銀樹’をたおやかな手ずから植えられたことを。

少女と青年の追いかけっこが幾度か続いたある日、森で一番鳥を多くとまらせることができる枝ぶりが自慢の長老が、前を通った少女――このときは10歳を越えたくらいの姿だった――に話しかけた。
「やあ、レティ。今日も‘出て行く’のかい?」
「ネイムさま、こんにちは。今日こそ出て行くの!」
大きな声で返事をする少女に、長老は「ほっほっほっ、レティは元気だのぉ」と笑う。
「ところで、レティはどうして外へ行きたいのかね?」
「うーんとねぇ……」
少女は首を傾げてちょっと考えた。
「呼ばれてるの」
「呼ばれてる?」
「うん、誰かが‘早く出ておいで’って呼ぶの」
「誰が呼んでいるのかわからないのかい?」
「……わかんない」
少女は悲しそうに俯いて首を振った。
「わかんないけど、声を聞いたら‘早く出て行かなくちゃ’って思うの……。でもね!」
そこでパッと顔を上げると、明るい声で長老に話しかける。
「あたしがちゃんと‘出て行けたら’、きっとわかると思うの!だから頑張るの!」
ヘイルナードに負けないんだからっ!と握りこぶしを振り上げた少女は、長老に挨拶をして走り去った。
「ほっほっほっ、さてさて、これは皆に教えてやらんとのう」
残された長老は少女を見送ると、楽しそうに呟いた。

木々たちは本当に何でも知っていた。
知ってはいたが、それを青年や少女に告げようとはしなかった。時が来れば自ずとわかることだと知っていたからである。

水晶の谷間の先には水晶が立ち並び迷路のようになっていること。
その迷路を抜けた最奥に、神々の力を受け森を支える源である大きな晶石が一つあること。
その晶石は見るものを吸い込みそうな艶のある漆黒であり、今では地の神に愛されし青年の魂が宿っていること。

さらに時が過ぎ、いつか‘翠玉銀樹’の少女が‘黒耀晶石’の下に自力でたどり着けるようになったそのときは……
きっと。
きっと……



「ねぇ、ヘイルナード」
「…………」
「わたしのことを特別な名前で呼んでくれたら、起きている間ずっと一緒にいてあげる」
「……………………考えておく」



それは、‘黒耀晶石ヘイルナード》’の精霊である青年と、‘翠玉銀樹レティルリティア》’の精霊である少女の、いつか交わされる約束。
その日の訪れを、大樹たちはとても、とても楽しみにしているのだった。 

モンクレール ダウン
【2011/01/17 14:28 】 | 小説
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